PRODUCTION NOTES

本作の出発点、それはちょっとしたサプライズであった。「AKB48」グループの総合プロデューサー、かの秋元康氏から「白石和彌監督に北原里英主演で映画を撮ってほしい」とのオファーが日活へと届いたのである。これだけでもインパクト大のトピックだが、決定的だったのは、北原里英のフェイバリットムービーの1本に白石監督の『凶悪』があり、彼女自身も「ぜひ『凶悪』のような作品に出たい!」と言っている、と―。

そこからこの企画は動き出し、さっそく秋元氏と白石監督、それから『ロストパラダイス・イン・トーキョー』『凶悪』とタッグを組んできた脚本の髙橋泉を交えての会合が開かれた。秋元氏から様々なアイディアを提示され、しかし最終的には、白石&髙橋コンビが今やりたいことを軸にして方向性を固め、「アイドルの枠を超え、女優としての彼女の器量を試してほしい。」とのオーダーに応えるべく、完全オリジナル脚本で挑む運びとなった(秋元氏はスーパーバイザーとしてクレジット)。

1年以上の脚本づくりを経て、いよいよ撮影へ。一部の合成カットは東京で撮ったものの、基本はほぼ新潟県内でロケが行われた。2017年2月2日にクランクイン、19日まで怒涛の日々が続いたわけだが、主演の北原里英は全身全霊でこの映画に取り組んだ。横殴りで吹き付ける雪に風に霙。劇中衣装の薄着のドレスを身に纏い、裸足同然で極寒のロケ地に立ったのだ!

まず、序盤の舞台となった廃屋から逃亡するシーンでは、(本編に使用されたのはほんの一部であったが)普段人が入っていない雪山に体を半分埋めながら長時間必死に歩き、がむしゃらに頑張った。中盤からのステージとなる海の家も寒さがキツく、共演者のピエール瀧が低血糖に陥り、「ブドウ糖を溶かしたお湯を用意してほしい」と要望が出たほど。そんな中で北原里英は物語の展開、シチュエーションに応じて幾つもの顔を見せ、とりわけ、次第に凶暴化しつつも母性が入り混じっていく鬼気迫る演技は凄まじく、観る者を圧倒する。

ちなみに、新潟の雪山の廃屋ならびに海の家という設定は、脚本段階から明確に白石監督の脳内にイメージがあった。師匠の若松孝二監督が新潟でよくロケをしており、助監督時代その記憶があったのだ。北原里英が所属する「NGT48」は偶然にも、新潟をベースに活動をしているが、白石監督との出会いは半ば“必然”であったのである。

“サニー”の狂信的信者にして拉致事件の実行犯役はこの二人、『凶悪』のピエール瀧とリリー・フランキー。白石監督は「『凶悪』と同じ関係性でやってもらってもつまらないので、立場を逆転させてみた」と、新たなコンビ感の創出を狙い、それに堂々応えた二人は、弱音ひとつ吐かずに献身的に難役を全うした北原里英に多大なる刺激を受けたという。

もちろん、白石組経験者である、門脇麦に与えられた“ミッション”の重要性は言うまでもない。さらに常連の音尾琢真らも加わって、「一線を超えてしまった人間たち」の生態をスクリーンに刻みつけている。

「NEVADA事件」にドローン少年、ネット上でのSHOWROOM的なコミュニケーション……など、さまざまな現代的なトピックス、社会現象がちりばめられているこの『サニー/32』。映画のオープニングを「専門スレッド」の画面に模して始めたことからも、白石監督の遊び心と“戦略”が見えてくるだろう。ここで注目したいのは“1分でわかる「サニー事件」”の背後から聴こえてくるサニーを賛美するラップ。歌っているのは何と(『火花』を共作した)沖田修一監督で、バックコーラスは白石監督自身! スクロールされていく画面に「サニたんに萌える会 会長と副会長」の写真が一瞬、顔をぼかして映るが、正体はサニーポーズを決めた両監督である。

できる限り順撮りに近い形で撮影を進めてきた本作の最終シーンは夜間、まさに北原里英が海の家の屋根へと上がるクライマックスの場面だった。撮影の灰原隆裕は『女子の事件は大抵、トイレで起こるのだ。前後編』(15)以降、『牝猫たち』『彼女がその名を知らない鳥たち』と続いて、最新作の『孤狼の血』(18)も任されている白石組の主軸。他のスタッフも盤石の布陣だ。が、北原は翌日、別の仕事があり、早朝には新幹線に乗らねばならない状況で、刻々と日が明けていく。白石監督は絵コンテを描くタイプではないのだが、難しい撮影を効率よく行うために必要なカットをコンテにおこしてスタッフと意思共有して臨むことに。雪が降って、積もって、強風で雪がなくなってと目まぐるしく変わる撮影環境の中、果たして撮影は無事終了、疲労困憊の中、監督は主演女優に花束を渡してハグすると、すぐに彼女を送り出した。

戦場のような現場から生み出された映画『サニー/32』―今後、女優として闘っていく北原里英にふさわしい作品になるに違いない。